2017年7月28日 第65期王座戦・挑戦者決定!

2017年7月28日 金曜日。

 

今回はちょっと毛色を変えて。「将棋の話」。

 

 

私が「観る将(観戦専門の将棋好き)」になったきっかけは、2013年の王座戦だった。

絶対王者羽生善治に立ち向かう気鋭の若手棋士中村太地

玄人(確か橋本崇載八段だったか?)をして、フルセットに渡る「五局すべてが名局」と言わしめた名勝負は、将棋の分からない私にも大変心に響くものがあった。

特に第四局には強烈な印象が残っている。

2勝1敗で王座奪還に王手をかけた中村太地がこの対局で勝利目前まで迫るも、羽生王座を仕留めきれない時間が延々と続く。栄冠に手が届きそうで届かず、もどかしく苦しそうに頭をかきむしる挑戦者。ゆらゆらと揺れながら盤面にすべてを捧げ思考し、ギリギリで耐え忍ぶ王座。しかしついに!ついに中村挑戦者が羽生王座を詰ましたぞ!…と思ったのだが、その攻め筋が何と「打ち歩詰め」と呼ばれる反則技に合流していたため断念せざるを得ず、ついには羽生王座に攻めをかわしきられて挑戦者の負けに。羽生王座がカド番を制し、タイトルの行方は最終局に持ち越された…というものだった。

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対局の映像からにじみ出るオーラの凄まじさ。

素人目にもこれが「死闘」であると理解するのは極めて容易であった。

 

続いて第五局。羽生王座が冴えに冴え、AIの示す正解手と同じ手を放ち続ける圧巻の指し回し。終盤にて自らの負けを悟った中村太地六段の、長い間、中空をぼんやりと見つめる表情、今でも忘れない。すぐに投了してもよかったのだろうが、最高の棋譜を残すという美学からか、彼はそうしなかった。しばらく進め、羽生王座から角が放たれ、いよいよ自玉があらゆる方向からたくさんの駒に狙われんとするその瞬間を投了図に切り取って、彼は「負けました」と頭を下げたのだった。

数か月に及んだ「死闘」。その終わりはこんなにも静かで穏やかなんだな…。そう感じたのを覚えている。

 

同時に私は虜になった。

 

互いに盤に全神経を集中させて自分を表現し、最高の棋譜を残そうと頑張る彼らのひたむきな姿に。

彼ら自身はとても純粋で穏やかでユーモラスであることに。

 

ああ、数学と世界観が似ているな、好きになるのも当然か…みたいに思ったりもした。

 

…それから4年の月日がたった。

その間、将棋界が世間の注目を大きく集めるようになった。電王戦→3月のライオン・聖の青春→カンニング疑惑事件→藤井聡太四段 という段階を踏んで。

世界がどんなに複雑になっても、純粋で素直で美しい文化を人は普遍的に好み、欲するのだな、などと考えるとホッとする。とても嬉しい現象と思っている。

 

ところでなぜこんなに語るのか。

 

それは7月28日が今期王座戦の挑戦者決定戦で、挑戦者が中村太地六段に決まったからだ。先述の王座戦以来のタイトル挑戦となる。同じタイトル戦、同じタイトル保持者を相手にした生粋のリベンジマッチが今からとても楽しみだ。素晴らしい勝負になりますように。